現在の研究課題

リアリティ追求の為の考察


はじめに

現在常識とされている、入力と出力の波形が相似なら録音時の音響が再現されるというのは本当でしょうか。歪みが皆無に近いトランジスタアンプと手作りの真空管アンプを聞き比べると、真空管アンプのほうがリアルに聞こえたりするのはなぜでしょう。電気的な特性はどう考えても現代の半導体アンプのほうが優れている事は間違えありません。でも、オーディオの世界ではこのような事が頻繁に起こります。それら不思議な事をリストアップしてみました。まだたくさんあると思いますがとりあえず思い付く事を上げました。

  1. 真空管アンプのほうが同じ出力のとき大きな音がする。
  2. 歪みの多いはずのシングル無帰還アンプのほうがリアルに聞こえる。
  3. あらゆる点で劣るはずのレコードのほうがCDより情報量が多いように感じる。
  4. CDによって良く鳴るもの鳴らないものがある。
  5. 古い部品・古典回路が最上である。

今までいろいろな説明が多くの人によってされてきました。多くのアプローチは「何か人間に特殊な能力があり測定器より優れているからだ。」といった内容の説明が多くされてきたと思います。確かに人間は優れた測定器といえるでしょう。しかし、いくら物理特性をよくしても一向に音が良くならないのはなぜでしょう。何か、霊的なものでも介在しているのでしょうが。それではまるでオカルトです。以前、無帰還に何か回答があると思いいろいろ試しました。でも、結局は投入した資金、労力にオーディオは答えてくれませんでした。私は、どうせそんなものとずっとあきらめていました。ところが、5年ぐらい前だったと思います。ある手作りアンプの登場で再度これらの問題に取り組む事となりました。

リアリティの問題

音楽再生におけるリアリティはどこから来るのか。BM1はその点に対する問題提起でした。リアリティを追求するために必要な要素は、歪みの低減とダイナミックレンジの拡大、帯域の拡張、SNの向上と私は考えていました。確かにこれら要素が良くなると聴感上リアルになったと感じます。しかし、BM1はそれらすべての要素と無関係にリアリティが存在している事を証明してみせたのでした。前に上げた4要素の他に重要な弟5の要素が存在するはずです。又、これだけ明確ならばきっと計測可能に違いないと考えました。そして、計測可能なら再現可能と考えたのでした。

最初の取り組み

最初にリアリティを阻害する原因として考えたのは2乗特性歪みでした。2乗特性によって正弦波の上下の形が変る事はよく知られています。しかし見落としがちなのは音楽信号の場合の影響です。2乗特性歪みによる波形の変化は全帯域の正弦波に対して同じ形の変化を生じます。ところが同じ波形というのが厄介です。10Hzにおける波形変化によるエッジの移動時間と10KHzにおけるエッジの移動時間では実に1000倍の差が生じます。音楽信号は幾つかの周波数の和と考える事ができます。予って2乗特性歪みによってエッジが正確に出ない事になります。(無帰還アンプでソプラノがびびるのはこの歪みによるものです)超3の回路を見ると出力管のプレートから3極管を使って出力管グリッドに対してNFをかけていると考える事ができます。3極管は理想3極管と2極管の直列接続と考える事ができます。この時はNFループに2極管を入れる事による2乗特性の排除と考えました。(後で違う事が分かった)ラジオ技術の藤井秀雄さんの記事をヒントに無帰還で2乗特性を補正する方法をいろいろ検討しました。

807シングルアンプの製作

最初にラインアンプの2乗特性歪み取りを行いました。最終的な解決策としてリニアライザを採用しました。ちょうどBMの会の定例会のテーマが807だったので早速807を使用してリニアライザのメインアンプでの使用を試す事にしました。写真を見ると807が4本立っているのが見えます。一見するとプッシュプルに見えますがシングルアンプです。後ろの2本は2極管接続されています。左の箱は電源です。電源には逆2乗特性の発生の為に大容量(2000uF)のコンデンサを使用しています。

807アンプ

807アンプは平面スピーカーを効率よくドライブしました。低域も締っていて仲間から聞いていた807特有のボワボワした低域は聞こえてきません。高域の解像度もきわめて高く、女性ボーカルの難しそうなソースをかけてもビリつきは発生しません。又、今まで知っているトランジスタアンプの音でも真空管アンプの音でもありません。

リアリティに関しても今まで制作したアンプでは得られなかったリアルな鳴り方をします。ピアノの重量感が再生できます。出力は5W程度ですから常識的には得られない質感です。1812年の大砲の音もパンではなくズドンと聞こえます。とりあえず実験は成功したようです。

発見

807アンプの特性をいろいろ調べた結果、入出力にある特徴を発見しました。オシロスコープでいろいろ測っている最中に偶然リサージュを取ったのですが、そのパターンを見て驚きました。通常正しいアンプの動作においては、入出力の位相が揃うと解釈していたのですが、揃うどころか右上がりの楕円を表示していました。それも音楽信号を入力しているのに関わらず中心を通る揮線が無いのです。どこかの帯域でこの様なずれを発生する事はフィルターを使用している場合などでは考えられると思います。その場合、特定の周波数若しくは帯域で発生する現象のはずです。全帯域で規則正しく位相のずれが発生する話は聞いた事がありません。

リサージュ

写真は6Y6アンプによるものですが同じように進み位相が観察できます。又、位相の進み角はスピーカーによって変ります。普通のスピーカーでは90°近い進みが観測される事があります。私が使用している平面スピーカーでは45°以下の進み角を示します。ちなみに、以前制作した6B4Gシングルアンプではこの様な現象は観測できませんでした。

位相進みの効果に関する考察

位相進みが発生しているアンプの聴感上の特徴をまとめました。

この特徴はレコードをシングルアンプで聞いたときの状態に良く似ています。いろいろ検討した結果幾つかの予測をしました。現在の入出力の波形の相似を出力する駆動方式に対しての疑問が出てきました。マイクロホンが捕らえた情報が振動版の位置情報とすると、奇妙な事がおきます。正弦波ではゼロクロスが最も傾きがきつく、波の頭は平らです。ゼロクロス点では振動版が最も加速している状態です。又、頭では振動版は停止しています。ところが位置情報で振動版を駆動すると奇妙な事がおきます。最も加速が必要なゼロクロスで出力が出ない事になります。(0Vでは出力は0W)波の頭で最大出力になるが、振動版は本来停止しなければならないのです。つまり、位置情報を適正な加速度情報に変換し駆動する必要があるのではないか。という予測です。

余談ですがレコードとCDの聴感上の違いは、出力される情報の違いにあるのという予測をしました。レコードの溝に刻まれている情報を位置情報とします。すると読み取るカートリッジの出力は、MMであれMCであれ磁石とコイルですら加速度情報となります。つまり、レコードの場合加速度情報でスピーカーを駆動している事になると考えられます。CDの場合はそのまま位置情報を出力します。聴感上レコードの方がリアルだといわれたのは加速度情報でスピーカーを駆動したためでないでしょうか。

この件に関して検討を続けています。意見、情報がありましたら連絡を下さい。

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でも何か違う

しかし聞き比べると超3結の6BM8には及びません。807アンプは高域は非常にきれいな鳴り方をするのですが低域の力強さが足らないのです。807アンプのダンピングは1程度です。最初、位相進みはダンピングが1に近いから発生すると考えたのですが、ダンピングが10近い超3結アンプでも同じような位相進みが観測されました。ただし、ダンパー管などを電源とトランスの間に入れた場合だけです。

次の発見

最初、出力トランスと電源の間に2極管を入れるとダンピングが1(マッチング状態)となると考えました。超3結の場合はどう考えても2極管を入れただけでインピーダンスが数倍になるとは思えません。そこで超3結を使用しないで高いダンピングを得られる回路に2極管を入れ電源と隔離(?)してみる事を考えました。今まで使用していたPG帰還に代わり差動入力を使用し、出力管のプレートから帰還をかける事にしました。差動入力まで使いNFを大量にかけた状態では出力管プレートで発生する2乗特性歪みは補正されるはずです。すると今まで補正も行っていた2極管はもっと効率の良いダイオードで良い事になります。実際に6Y6シングルアンプで実験を行いました。結果、この様な回路構成でも位相の進みが観測されました。又、このアンプは多量のNFを使用しているのにもかかわらず、無帰還アンプの様な伸びやかで生き生きした鳴り方をします。更に、NFアンプに見られる広帯域という特徴も兼ね備えています。

もう一つ不思議な事を発見しました。超3結又は高NFでは一般的なオーディオトランスはあまり相性が良くないようです。(音がこもる)この様な構成のアンプではインダクタンスの少ない小型トランスが聴感上良いようです。現在好んで使用しているトランスは東栄電気制の1個850円という安物です。それを2個3個と並列接続し使用しています。自己共振周波数の関係に着目し調査を行っています。

整理

ここで一旦整理します。

リアリティの為の新しい要素
  • 使用するスピーカーに適した加速度情報変換(位相進み)
    適切な位相進みを実現する手法
  • 電源への逆流阻止
  • 2乗特性歪みを最小にする
  • 次の課題

    簡単な電流プルーブ(サンスイの小型トランスを使用した簡易電流プルーブ)を使ってアタックの電流電圧波形を測っていたところ奇妙な現象を見つけました。信号の最初の立ち上がりの1波について、電圧は出ているのに電流がついてこないのです。超3結のアンプと、SDを使用しただけのアンプの音を比較すると、どうしても超3結のアタックの方が強力な印象を受けます。この理由を現在検討中です。超3結の回路はPG帰還の帰還抵抗を3極管に置き換えたと考えられます。ただし、3極管は2極管を含みますから、抵抗と違って片方向です。この片方向という特性がアタックの改善若しくは誇張に関係しているのではないか、という推理をしています。6BM8リニアライザアンプで実験したのですが、ある程度の改善が見られました。しかしまだ何か違います。以下に今後の課題をまとめました。

    これらの事に関して情報を持っていらっしゃる方。この様な企てに協力したい方は連絡を下さい。

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    以上 1998/5/5