このアンプの設計に関しては幾つかの実験的要素を入れました。このアンプは超3結合アンプで得られる聴感上の特徴を選られる様に回路に工夫をしました。超3結合アンプで得られる聴感上の特徴を以下に上げます。
上2点については807アンプでほぼ達成したと考えました。しかしアタックに関しては807アンプでは超3結で得られるようなアタック音は選られませんでした。超3結が直結だからという予測もありましたが、コンデンサの時定数を見るとそれほど低域まで位相の保証をしているとは思えません。この事は、もう一つの要素の存在を暗示していると思いました。いろいろ考えた末電源と出力トランスの間にSDを入れた場合、もしスピーカーから反射があれば、SDと出力トランスの間に電圧が発生するはずです。連続の信号の場合信号は発生しないはずですが、過渡的な入力があった場合、ここに電圧が発生すると考えました。予って、この点に電圧が発生しないようにするために、SDとトランス間から出力管のグリッドに対してフィードバックを架ける事にしました。以下にこのアンプに実験的に組み込んだ回路の要素を挙げます。
この2点の検証の為に普通の回路に幾つかの追加をしました。
6BM8が4本立っています。見た目にはプッシュプルと思われると思いますが、シングルアンプです。実はシャーシ内にも1本入っています。前面パネルのスイッチはミュートです。音量コントロール用のボリュームはありません。前後の球の間のつまみはアタック調整ボリュームです。電源部は共通電源を使用しています。回路構成は807アンプと同じようなリニアライザを使用したシングルアンプです。前段の電圧増幅部はSRPPを使用しました。最初スイングチョークとリニアライザという構成だったのですが、チョークに使用したOUTPUTトランスのインダクタンス不足から低域が出なかったためSRPPに変更しました。
最初の回路図を示します。6BM8の動作は規格表通りの動作としています。SRPPの回路も普通の定数を使用した回路です。最初の回路ではファイナル段にPG帰還を架けています。特徴的な部分は電解コンデンサの定数です。なるべく大きな定数を使用しました。通常真空管アンプでは少な目の容量を使用しますが、このアンプでは大きな定数を使用し可聴帯域から、コンデンサの容量に起因する位相の回りが無いようにしました。位相の回りはフィルターのf0の10倍からはじまると言われています。電源のコンデンサは80uFと小ぶりですが、外部電源内に2000uFのコンデンサを入れています。更に、直結に近くなるようにカップリングコンデンサを10uFとしました。ちなみにカップリングコンデンサは電解コンデンサを使用しました。電解はスピードが遅いと言われていますが。可聴帯域で放電スピードが問題となるような部品は、到底スイッチングレギュレーターなどには使用できないはずです。事実、電解コンデンサを測りますと500KHzぐらいまでは低いインピーダンスの状態を維持します。以下に最初の回路を示します。
しかし、このままでは807アンプの時と同じような音しかしません。超3結合で得られるアタック音は得られませんでした。そこで、当初から計画していたアタック補正回路を追加しました。本来、シングルアンプでは電源への電流の逆流はないはずです。ところがリニアライザを取り付け電源への逆流を阻止すると、リニアライザと出力トランス間に電圧の変化が発生します。トランスに接続されている負荷が純抵抗なら電圧は発生しません。そこで、リニアライザと出力トランス間に発生した電圧を出力管のグリッドにフィードバックする事にしました。動作としてはPFとして働きます。発信を始める前に電圧が出なくなれば問題なく動作するはずです。出力か瞬間的に増加しスピーカーとのマッチングを保証すると考えました。
回路の改造が終わり鳴らし始めました。心配された発信は起きませんでした。実験の目的であるアタックの鳴り方は激変しました。調整用のボリュームを使って適性と思われる場所を探していました。するとだんだん片方のチャンネルの音が小さくなっていったのです。リニアライザに使用している球と出力用の球を交換しましたが変りません。プレートが赤くなっているわけでもありません。左右を入れ替えると音の小さくなるチャンネルが入れ替わります。球がぼけてしまったようです。この球はいろいろ使いまわした球だったので、それが原因と思い球を交換する事にしました。週末に秋葉で新しい6BM8を8本買ってきて交換しました。ついでにCD屋で谷山浩子さんの新しいアルバムを買ってきました。後でこのCDが恐ろしい事態を生む事となりました。6BM8を交換すると生き返ったように元気良く鳴り出しました。早速買ってきたCDをかけました。ライブ録音だそうであまり加工されていない音がします。声を出す時にマイクをちょっと吹くDCを含んだような音まで聞こえます。「良い調子だ」とボリュームを上げました。「すごいすごい」と良い調子で聞いていたところ、CDの半分を過ぎたころからだんだん音が小さくなっていきました。最初アンプが暖まったからと思っていたのですが、1枚聞くうちにほとんど音が出なくなりました。ここで出力のチェックをしていなかった事を思い出しオシロをつなぎました。6BM8は8本買ってあったので全て交換し、同じCDを再度出力を観察しながら聞く事にしました。一見普通の音楽信号です。ところが良く見ると所々でとてつもなく大きな電圧が観測されました。通常の信号の5倍以上の細いスパイクが観察されます。よく見ると無信号から音声が始まる場所でスパイクが発生しています。「成功だ」と思っている間に2組目の4本もぼけてしまいました。後で気づいたのですが、リニアライザと出力素子もろとも駄目になる事から、カソードの許容電流のオーバーが原因のようです。真空管はタフといわれていますが、プレートの話でカソードに関しては意外と弱いようです。結局、実験と調整中に16本ほどの6BM8を殺してしまいました。
オーディオ用の球はこの様な大電流は想定していないようです。この様な変った使用をする場合はテレビ球などの方がいいと思います。