E90CC全段差動ミニ・アンプ

7ピン双3極管で全段差動PPを作る

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テスト中の全段差動ミニ・アンプ


全段差動アンプとの出会い

今年の2月に真空管アンプの試聴会に行ってきました。目当てはゲスト出演された木村さんの全段差動PPでした。
私の今までの作品を見ると気が付くと思いますが、PPに関しては1台もありません。ホームページを始める前に何台か作りましたが、どれも目当ての音にならず全て部品に戻っています。「PPなんて良い音しないよ。」と端から諦めていました。最近にもPPのアンプを借りてきて鳴らした事はあるにはあるのですが、うまく鳴ってくれませんでした。いくらボリュームを上げてもSPにべたっと張り付いた様な音でまともに鳴った試しがありませんでした。
ところが2月の試聴会で聞いた音は「目から鱗」の、今までの認識を全く覆す音でした。音離れが良く、アタックも鮮明で..そう、まるでSEのアンプの音です。噂には聞いていましたが、PPが駄目などと言うのは全く私の勉強不足でありました。木村さんに「私も作ります。」と約束し、プランを練り始めました。

最初の計画

最初は6DS5で作る予定でした。この球、宇多さんに紹介したものの私は作っていませんでした。4本購入ししばらく眺めていました。当初の計画では初段−12AT7、出力段−6DS5、TOP−T850二個、NFはプレートからの帰還を予定していました。

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初期案 魚の開きの様なPPの回路図が嫌でわざわざこんな風に..

初期案で6AS5となっているのは、CADのパーツに6DS5が無かった為です。今見ると案とは言えいいかげんな図面です。抵抗がすべて1KなのはCADのデホルトが1Kだからです。コンデンサも、デホルトです。おっと、出力管にグリッドリークが無いぞ。それでも、シャーシも買い込みこの路線で行く予定でした。そんな事をしているうちにGWも終わり、やっと作る時がやってきました。

そういえばE90CCが..

机の上に眺める為にいつもE90CCを出しています。この球は4年ほど前に宇多さんの頂いた球です。フィリップス製、大きなSQのプリントとSPECIAL QUALITYの文字が印象的です。細長いスマートな美しい球です。中には比較的大きなプレートの3極管が2本入っています。その上7ピンです。数が合わないと思います。なぜなら、カソードが共通なのです。これは差動にぴったりではないですか。早速、規格を調べてみる事にしました。中μ双3極管、μは27、Pp2W、Ib8.5mA...ちょっと出力管に使うには無理がありそうです。でも、眺めるだけで使わなければこの球も生れた意味が無いだろうと思い、無理を承知で作る事としました。鳴らしてあげるから、待ってろよ。

最終回路?

こんな小さい球で作るのですから、なるべく小さくと、6AN5超3を作った時のシャーシを使う事としました。長さ11cm、幅8cm、厚み2cmこのシャーシにPPを組むなんて無謀です。まずトランスが問題となりました。こんな小さな所に2個乗るPPのトランスなんて多分入手できないでしょう。サンスイのRT用のミニトランスも当たりましたがインピーダンスが小さすぎます。最低でも3Kは欲しい。いろいろと考えたあげくT−650を無理矢理PPで使う事にしました。
以前MJだったと思いますが、SE用のトランスをPPで使う記事が載っていました。確か、チョークを入れて交流分は遮断するやり方です。チョークはスペースの関係で載せる事は不可能と解っています。考えた末、OPTと電源の間に低電流を入れて絶縁しトランスの中点もどきが自由に動ける様にしたら..これは行けるに違いない。この方式で組んでみる事にしました。今回は6AN5以上に困難な配線でした。何せシングルアンプが4台入っている様な物です。

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抵抗は1/6W、高密度配線。

小さいトランスは位相反転の為に入れたオートトランスです。回路中のケミコンはカップリングコンデンサです。このサイズになると、フィルムコンデンサは大きすぎて使えません。最近ケミコンをカップリングに使用していますが、帯域が狭いなどと思った事は在りません。むしろ、回路が小さくできるのでその方のメリットの方が大きいと思います。
最初、カソードに定電流、チョークの代わりにも低電流と考えていました。これは駄目です。2個直列で使うと、どちらか一方の電流の小さい方だけ定電流となります。ならば、カソード側は抵抗にして、トランス側に定電流を使う事にしました。
さて、配線を終えて、電源を入れました。何と、出てしまったのです。ボツボツとモーだーボーディングです。やってしまいました。..よくよく考えると初歩的なミスでした。3極管の特性を考えると当たり前の事です。この方式は諦めました。結局、電源とOPTの間にダイオードを入れてせめて逆流しない様にして、カソード側に低電流を移動して、鳴らしてみました。すると、あっさりと鳴りました。

以下に現在の回路を示します。OPTの部分は暫定処置です。SEのトランスをPPで使う方法に関しては今後の課題とします。幾つか回路を試してみます。上手く行ったらまた報告するとの事で今回はかんべんです。何か良いアイディアがありましたら教えて下さい。

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回路図は魚の開きに戻しました。

さて、肝心の音は?

OPTはアンバラのままですし、変な音だったらどうしようと思っていました。ところが、驚くほどまともに鳴り出したのです。
最初あまりにゲインが低いのでびっくりしました。ボリュームは3時の方行を指しています。小さな音です。多分500mWは軽く下回るでしょう。でも、低域も崩れる事はありませんし、解像度も高く細かい部分も聞き分ける事ができます。それから、SEの十八番と思われた音離れですが、驚くほど良いのです。音量に関係なく音楽を楽しむ事ができます。小さい音なのに、隣の部屋で聞いてもはっきり聞こえます。これだけ、適当に組んでも尚、その性格を色濃く残しているのも驚きです。
この文章を書きながら聞いていますが、良く鳴っています。この音を聞いているとウン100Wとかいうアンプは何なのかと思います。基本的な回路が良いのでしょう。作りっぱなしで<、よくもここまで鳴るものです。深夜、一人で聞くには十分、お釣が来るぐらいです。
今までのSEアンプとの比較ですが、完成して日が浅いので細かい違いは良く解りません。音質はほとんど同じで、球による違い程度でしかありません。SEしかやらない人は全段差動は是非試す価値があります。目から鱗ですよ。

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小さくてもPPです。ちょっとチョンボしてますが..

今後の展開

十分にデータも取らず、出来てすぐにページを作って、この様ないいかげんな事をしていると、木村さんに怒られそうです。課題は幾つか残っています。まず、トランスを何とかしないといけません。即急にダイオードから何らかの回路に置き換える予定です。うまく行ったら続きを書こうかと思っています。アンプの健康診断もちゃんとやりましょう。
さて、ここまで来るとやっぱりもっと出力の出る全段差動が欲しくなります。最初の計画に戻って、6DS5でやりましょうか。

2000/05/21 田村
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