6360超3の制作

6AS6デュアルコントロールグリッドの応用


6360超3
試聴中の6360超3アンプ


経緯

 この球はタクシー無線等に使用された小型送信管です。内部の構造は多少変わっています。カソード共通の双4極管です。実際に内部を覗いてみると、ビーム電極があり実際にはビーム管です。双がつく理由は、プレートとグリッドは別々に引き出してあるためです。実際に送信間として使用した時にはプッシュプルで使用したそうです。購入した6360はテレフンケンの球でとても奇麗な仕上がりです。この外観を見て制作意欲が湧いてきました。

プランニングと回路構成

 そういえば、久しく超3をやっていない事に気が付き、回路は超3とする事としました。単に超3を作っても芸が無いので新たな要素を盛り込む事にしました。いろいろと考えたあげく、以前から試していたSDにより発生する電圧の処置に何かいたずらをする事としました。前回制作の6Y6では、出力管のグリッドにPFする事で処置をしました。そこで今回はもっと積極的に対処を行う事としました。6AS6という球があります。この球RF用のちび5極管と思っていたのですが実はデュアルコントロールグリッド管というちょっと変わった球である事が最近わかりました。多分、受信機のミキサーに使用した物と思います。通常まったく感度の無いG3に感度があるのです。ちょうどデュアルゲートのFETです。このG3にSDからの信号をPFしたらどうなるか。もっと積極的にSDで発生する信号を抑制するのではないかと考えました。
 回路は標準的な超3を使用しました。そして,前段の6AS6のG3にSDからの信号をコンデンサでDCカットし加える回路としました。出力トランスは東栄のT650−7Kを並列で使用する事にしました。電源はユニバーサル電源の小型を使用しました。この電源はB電源として約260Vと約150V共に150mA、ヒーター用として6.3V2Aを2系統、OPアンプ用として±20Vを1系統持っています。今回は約300Vの電圧が必要となるため260Vと±20Vを直列で使用する事としました。主に6BM8クラスのステレオアンプ用の電源です。シャーシにタカチのヘアライン加工済みのケースの使用しました。以下に回路図を示します。

6360回路図
回路図

配線のコツ

 送信管を使用する場合、多少考慮しなければならない事があります。配線がまずいと非常に高い周波数で発振する事があります。807を制作した時に珍しい発振を経験した事があります。音がちゃんと出ているのにTVIが出たのです。まさかと思って電源を切るとTVIも止まりました。この時はプレートに入れたパラ止めが不適切だった様できちんと作り直して止める事ができました。今回は事前の情報でパラ止めは問題ありとの情報を得ていたのでフェライトビーズを使用する事としました。フェライトビーズの場合も入れる位置を考えないと効果は期待できません。なるべく端子に近い位置に入れるようにします。又、配線は極力短くし線同士が平行に走らない様にしましょう。発振しにくい配線をするためには部品の配置が大切で、写真に示すような縦長のシャーシは比較的有理と思います。

6360内部配線
内部配線の様子

調整と奮闘

 配線が上がり火を入れてびっくり。約1秒の周期でモーターボーディングを起こしています。初っ端、音がでないのは久しぶりです。(さて困った)最初闇雲に6AS6を交換しました。幾つか交換しましたが一向に症状は改善しません。少しパニックになっていたため無意味な事をしてしまいました。冷静になって、まず超3部分を正常にする事としました。SDからの信号を外しG3にあった負荷抵抗をショートしました。結果、モーターボーディングはとまりました。やれやれと、音楽信号を入れてみました。今度はボソボソ音(超3が上手く動作しない時によく起こる)になっています。最初に超3を作ったときのような事が起こっています。またまたパニックになって幾つか球を交換しました。NFの3極管をT7に変えたとき症状が緩和されるようです。しかしどうにもなりません。一服しお茶を飲んで冷静になり、前段周りの電圧をチェックしていきました。どうやら前段のバイアスが出ていないようです。6360に関しては発振を恐れていろいろ対策をしたのですが、同じ高周波球の6AS6に関しては何の対策もしていません。この手の高周波ミニ球の規格を見ると固定バイアス不可とか書いてあるのを思い出し、カソードにコンデンサをいれる事としました。手持ちの100uFのOSコンをカソードのバイアス調整ボリュームと並列に入れました。突然アンプは何事も無かったように普通に鳴り出しました。バイアス調整ボリュームを少し回してみましたが問題無い様です。超3のオリジナル回路ではここのコンデンサは入れないようになっています。その場合音が出る場所を探す事はできますが非常にクリティカルです。人によっていれない方が良いと言い、意見の別れるところです。但し調整の事を考えると入れておいた方が無難と思います。とりあえず音が出たので調整を進めました。低能率のスピーカーを接続し音楽信号を入力して最も大きな音の出る場所を探してゆきます。入力の信号レベルを徐々に上げて同じ事を繰り返します。大体よさそうな場所が見付かったら出力管のバイアスをチェックし出力間の動作が規格オーバーになっていない事を確認します。この様にして調整を終えました。しばらくエージングを行い動作を再チェックし大きなずれが無ければ良しとします。この様にして基本回路を動作させる事ができました。

6360仕上がり
木製トランスカバーを着けてみました

1999年1月15日


6AS6 G3の接続

 正月の騒ぎも一段落し6AS6のG3の利用の実験を開始しました。前回モーターボーディングを起こした事を考慮しグリッドリークを680Ωと低く取り、SDからは4.7Kでつなぎました。1/10とは言わないまでも幾分押さえ気味としました。6AS6のG3の特性に関してはデータらしいものは見つからず手探りでやってみるしかないようです。配線をつなぎ直しそのままセットにつなぎ電源を入れました。2分が経過しても何も言いません。どうやら発振はしないようです。とにかく音を聞いてみる事にしました。去年末に発売されたユーミンのアルバムをとりあえず駆けてみました。驚くべき事に今までと全く違った鳴り方をします。今までは確かに低域が出ていたのですが、ちょっとボテとしていました。ところが非常に締った低域になりました。アタックの立ち上がりも今までより数段早い感じです。ただ良い事ばかりではなくちょっと締りすぎた様です。低域の響きのようなものがなくなってしまいました。やりすぎたのかも知れません。ただ、不思議なのは何でこんなに音が変るかです。

1999年1月末

追加回路

いろいろ出てきました。なんでこんなに変るのか不思議な回路です。

ちょっとした改造?

 最近、有名になったTさんの話で、「前段を鉛テープで縛って良い音になったぞ。」と言うのがありました。振動が云々と言うのです。6AS6という球ですがマイクロフォニックノイズを実に良く拾います。これは効くかも、と思い私も早速鉛テープで巻いてみました。結果は上々で、残っていたもやもやが取れすっきりした音となりました。灯台もと暗しとはこの事か。意外と「音の厚み」などと言っているのはこんな事かも知れません。

1999/02/03 節分
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